神経可塑性とは、脳の神経回路が経験 / 学習 / 環境の変化に応じてその構造や機能を再編成する能力を指す。シナプス結合の強化 / 弱化、新たな神経経路の形成、さらには成人脳における神経新生まで含む広範な概念である。かつて成人の脳は固定的と考えられていたが、現在では生涯を通じて可塑性が維持されることが明らかになっている。リハビリテーションや認知トレーニングの理論的基盤となる重要な概念である。
可塑性のメカニズム
神経可塑性は複数の階層で生じる。シナプスレベルでは、ヘブの法則に基づく長期増強 (LTP) と長期抑圧 (LTD) がシナプス伝達効率を調整する。繰り返し同時に発火するニューロン間の結合は強化され、使われない結合は弱体化する。構造レベルでは、樹状突起スパインの形成 / 消失、軸索の伸長 / 退縮が起こる。さらに大規模なネットワークレベルでは、特定の機能を担う脳領域の拡大や、損傷後の機能再配置が観察される。
年齢と可塑性の関係
可塑性は発達期に高く、臨界期と呼ばれる発達初期の時期には、神経回路が経験によって形づくられる。言語習得や視覚系の発達がその典型例である。成人期以降も可塑性は維持されるが、その程度と速度は低下する。高齢者でも新しいスキルを習得できるという報告がある。運動、知的刺激、社会的交流、十分な睡眠が可塑性の維持に寄与するとされる。
認知トレーニングとの関連
認知トレーニングが脳の可塑性を活用して機能改善をもたらすという考え方は、脳トレーニング産業の理論的根拠となっている。反応時間課題やワーキングメモリ課題の反復練習が、関連する神経回路の効率化を促すという説明がある。ただし、脳トレーニングの介入研究を検討したレビューでは、訓練した課題の成績が向上する証拠は多い一方、近い課題への転移の証拠は少なく、遠い課題や日常の認知能力への転移の証拠はほとんどないと報告されている。