所得と資産は別の概念である
所得 (income) はフロー (一定期間に流入する金額) であり、 資産 (wealth) はストック (ある時点で保有する純資産の総額) である。 年収 1,000 万円でも貯蓄ゼロの人がいる一方、 年収 300 万円でも不動産と金融資産で 5,000 万円を持つ人がいる。 両者の経済的な安定性は根本的に異なる。
Credit Suisse の Global Wealth Report 2023 によると、 世界の成人 1 人あたり平均資産は 87,489 ドルだが、 中央値はわずか 8,654 ドルである。平均と中央値の 10 倍の乖離は、 資産分布が所得分布よりもはるかに不平等であることを示している。
資産格差の規模 - 所得格差を凌駕する不平等
世界の資産ジニ係数は 0.85 であり、所得ジニ係数 (0.70) を大きく上回る。 上位 1% が世界の総資産の 45.8% を保有し、下位 50% の保有割合はわずか 1.2% である。 この格差は過去 20 年間で拡大し続けている。
資産格差が所得格差より大きい理由は、資産の蓄積メカニズムにある。 所得は毎年リセットされるが、資産は複利で成長する。 r > g (資本収益率が経済成長率を上回る) というピケティの命題は、 放置すれば資産格差が自動的に拡大することを示している。 相続による世代間移転も格差の固定化に寄与する。
日本の特殊性 - 不動産偏重の資産構成
日本の家計資産は不動産が約 35%、現金・預金が約 30% を占め、 株式・投資信託は約 15% にとどまる。米国では株式が約 40% を占めるのと対照的だ。 この資産構成の違いは、資産格差の性質にも影響する。
日本では「持ち家か賃貸か」が資産格差の最大の分岐点となる。 東京都心のマンションを所有する人と賃貸に住む人では、 同じ年収でも純資産に数千万円の差が生じる。 しかし不動産は流動性が低く、価格変動リスクも大きいため、 「資産が多い = 経済的に安全」とは限らない。
ランキングで所得と資産を混同しない
MyRank の年収ランキングは所得 (フロー) のみを対象としている。 資産 (ストック) のランキングは、信頼性の高い世界データが限られるため 現時点では提供していない。この区別を理解することは重要である。
年収ランキングで上位にいても、負債が多ければ純資産はマイナスかもしれない。 逆に、年収ランキングで中位でも、長年の蓄積で資産は上位かもしれない。 経済的な「立ち位置」を正確に把握するには、 所得と資産の両面から自分を評価する必要がある。
資産形成の世界的トレンド
過去 20 年間で世界の総資産は 3 倍以上に増加した。 しかしこの増加の大部分は不動産価格と株式市場の上昇によるものであり、 実体経済の成長 (GDP 増加) を大きく上回っている。 資産価格のインフレは、既に資産を持つ人をさらに豊かにし、 これから資産を形成しようとする人のハードルを高くする。
若年世代が直面する「資産形成の困難さ」は、個人の努力不足ではなく、 マクロ経済的な構造変化の帰結である。住宅価格の対所得比は 多くの先進国で過去最高水準にあり、「普通に働けば家が買える」という 前世代の前提は崩れつつある。ランキングの数字は、 こうした世代間の構造的不平等も反映している。