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社会的流動性の国際比較 - 親の所得が子の未来を決める度合い

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世代間所得弾力性 - 親の収入が子を縛る度合い

社会的流動性を測る最も標準的な指標は「世代間所得弾力性」(Intergenerational Earnings Elasticity, IGE) である。IGE が 0 なら親の所得と子の所得に相関がなく完全な機会平等、1 なら親の所得が子にそのまま引き継がれる完全な固定社会を意味する。Corak (2013) の推計によると、デンマークの IGE は 0.15、カナダは 0.19、日本は 0.34、米国は 0.47、ペルーは 0.67 である。米国は先進国の中で最も社会的流動性が低い国の一つだ。

IGE 0.47 という数値は、親の所得が平均より 100 万円高い場合、子の所得も平均より 47 万円高くなる傾向があることを意味する。この「所得の遺伝」は、遺伝子ではなく教育機会、社会的ネットワーク、居住地域、健康状態などの環境要因を通じて伝達される。生まれた家庭の経済状況が、本人の努力とは無関係に将来の経済的地位を大きく規定している現実がデータで裏付けられている。

グレートギャツビー曲線 - 不平等と固定化の悪循環

経済学者 Alan Krueger が 2012 年に命名した「グレートギャツビー曲線」は、所得格差 (ジニ係数) と世代間の所得固定性 (IGE) の間に正の相関があることを示す。つまり、現在の格差が大きい社会ほど、次世代での逆転が困難になる。この関係は「不平等の罠」とも呼ばれ、格差の拡大が自己強化的に固定化を進める構造を示唆している。

北欧諸国はジニ係数が低く (0.25-0.28) かつ IGE も低い (0.15-0.20) という「高流動性・低格差」の象限に位置する。対照的に、米国やイギリスはジニ係数が高く (0.35-0.40) かつ IGE も高い (0.40-0.50) という「低流動性・高格差」の象限にある。日本はその中間に位置するが、近年のジニ係数上昇に伴い、将来的に流動性が低下するリスクが指摘されている。

Chetty の Opportunity Atlas - 地理が運命を決める

ハーバード大学の Raj Chetty らによる Opportunity Atlas プロジェクト (2018) は、米国の全郵便番号区域について、そこで育った子どもの将来所得を追跡した画期的な研究である。結果は衝撃的だった。同じ都市内でも、育った地区によって成人後の平均所得に年間 1 万ドル以上の差が生じる。この差は人種、親の所得、教育水準を統制した後でも残存する。

Chetty らの Moving to Opportunity 実験の追跡調査では、低所得地区から高所得地区に 13 歳未満で転居した子どもは、成人後の所得が平均 31% 上昇することが示された。居住環境が人的資本形成に与える影響は、従来の想定以上に大きい。日本でも同様の地域間格差が存在する可能性は高いが、個人レベルの所得追跡データが不足しており、実証研究は限られている。

北欧モデルの成功要因と限界

北欧諸国の高い社会的流動性を支える制度的要因として、(1) 無償の高等教育、(2) 手厚い育児支援と保育の普遍的提供、(3) 累進的な税制と再分配、(4) 労働市場の柔軟性と手厚い失業保険 (フレキシキュリティ) が挙げられる。これらは「機会の平等」を制度的に担保する仕組みであり、結果の平等ではなくスタートラインの平等を目指す設計思想に基づいている。

ただし北欧モデルにも限界がある。移民の社会的統合においては、ネイティブとの所得格差が 2 世代経っても解消されないケースが報告されている。また、高い税負担は起業インセンティブを抑制する可能性があり、イノベーション創出力では米国に劣るという批判もある。社会的流動性の最大化と経済的ダイナミズムの維持は、必ずしも両立しない政策課題である。

MyRank で自分の「出発点」を客観視する

MyRank の所得カテゴリでは、現在の所得水準だけでなく、その所得に至るまでの「出発点」を意識することが重要だ。親の所得階層から現在の自分の位置までの移動距離が、あなた個人の社会的流動性を示す。世界の IGE データと照らし合わせれば、自分の達成がどの程度「環境の恩恵」で、どの程度「個人の努力」によるものかを概算できる。

次のアクションとして、自分の所得を MyRank で世界ランキングに位置づけた上で、親世代の所得水準 (推定で構わない) との差を計算してみよう。上方移動しているなら、あなたは統計的に見て「流動性を実現した側」にいる。さらに重要なのは、次世代への影響だ。教育投資、居住地選択、文化資本の伝達を意識的に行うことで、世代間の正の連鎖を設計できる。社会的流動性は、個人の選択の積み重ねでもある。

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