男女賃金格差の世界的現状
ILO (国際労働機関) の 2024 年報告書によると、 世界の女性の平均賃金は男性の 80% であり、20% の格差が存在する。 この「未調整賃金格差」(unadjusted gender pay gap) は国によって大きく異なる。 韓国 (31.2%)、日本 (21.3%)、イスラエル (19.3%) が OECD 内で最も大きく、 ベルギー (3.8%)、コスタリカ (1.5%) が最も小さい。
未調整格差は「同じ仕事に対する不平等な報酬」を直接示すものではない。 職種、労働時間、勤続年数、産業、役職の違いを統計的に調整した 「調整済み賃金格差」は、未調整格差より小さくなる (日本で約 8〜12%)。 しかし、調整後に残る格差こそが「説明できない差」であり、 差別の存在を示唆する部分である。
格差の構造的要因 - 職業分離と昇進の壁
賃金格差の最大の要因は「職業分離」(occupational segregation) である。 女性が多い職種 (介護、保育、事務) は男性が多い職種 (IT、金融、建設) より 平均賃金が低い傾向がある。この賃金差は職種の社会的評価と 労働市場の需給に起因するが、なぜ女性が多い職種の賃金が低いのかは 循環的な問題を含んでいる。
「ガラスの天井」(glass ceiling) も格差を拡大する。 管理職に占める女性の割合は世界平均で 28.3% (ILO 2024) であり、 上位に行くほど女性比率は低下する。CEO レベルでは Fortune 500 企業の 10.4% に過ぎない。 昇進の遅れは生涯賃金に累積的な影響を与え、退職時の年金格差にも波及する。
マザーフッドペナルティ
Kleven et al. (2019) のデンマークの研究は、第一子出産後に 女性の所得が約 20% 低下し、その後も回復しないことを示した。 一方、男性の所得には出産による影響がほぼない。 この「マザーフッドペナルティ」は先進国で普遍的に観察される現象であり、 賃金格差の主要な説明変数の一つである。
日本のマザーフッドペナルティは特に大きい。 第一子出産後に離職する女性の割合は約 46% (2020 年) であり、 再就職時にはパートタイムや非正規雇用が多く、 出産前の賃金水準に戻ることは稀である。 この「M 字カーブ」(年齢別女性労働力率の形状) は日本と韓国に特徴的であり、 制度的な育児支援の不足を反映している。
年収ランキングにおけるジェンダーの影響
MyRank の年収ランキングは性別を区別せず、世界全体の分布と比較する。 これは意図的な設計判断である。性別で分けたランキングは 「女性としては上位」「男性としては中位」という比較を生み、 格差を所与のものとして固定化するリスクがある。
全体ランキングで女性の位置が男性より低く出る傾向があるとすれば、 それは個人の能力の差ではなく、上述の構造的要因の帰結である。 ランキングの数字は現状を映す鏡であり、 その現状が公正かどうかは別の問いである。 データは「何が起きているか」を示すが、「何が起きるべきか」は示さない。
格差縮小に効果のある政策
賃金格差の縮小に効果が実証されている政策がある。 第一に、賃金透明性法 (企業に性別賃金データの公開を義務づける)。 英国の 2017 年導入後、対象企業の格差は年 0.5 ポイントずつ縮小している。 第二に、育児休業の父親割当 (パパクオータ)。 アイスランドの導入後、男性の育休取得率は 90% に達し、 マザーフッドペナルティが軽減された。
第三に、保育インフラの整備。ケベック州の低価格保育制度導入後、 母親の労働参加率は 8 ポイント上昇し、賃金格差は縮小した。 これらの政策は「個人の選択」を変えるのではなく、 「選択の前提条件」を変えることで構造的格差に介入する。 ランキングの数字の背後にある構造を変えることが、真の改善につながる。